デモクラシー・ナウでADHD話

デモクラシー・ナウで、カナダの小児科医ガーバー・マテのインタビューが二ヶ月続けてあった。

http://www.democracynow.org/2010/11/24/dr_gabor_mat_on_adhd_bullying
http://www.democracynow.org/2010/12/24/dr_gabor_mat_on_the_stress


番組



インタビューによると、この医者は、1944年にナチス支配下目前であったハンガリーのブタペストでユダヤ系の家系に生まれた。
父は強制労働に駆りだされ、祖父母はアウシュビッツで殺された。自身は38歳の時にADHDと診断された(1982年か)。

彼は現代社*1が子供の発育に対して極めて悪く、それによってADHD自閉症などが増えているという、通説とは逆に遺伝的影響はないかわずかで、環境の影響が一番大きい説を訴える*2。もっと言えば、生活にかかる過大で慢性的なストレスと、孤立した個人主義的社会に原因があると話している。彼はADHDのような発達障害は社会的*3なものであり、それを薬や治療で補おうという今のやり方に反対している。

しかしあまり話の本質とは関係のないことではあるけど、彼の話を吟味すると、(自身が言っている程には)別に遺伝説を根本的に否定していないように見える。ストレスなどの環境的要因をどれだけ挙げても、それによってADHDのような特徴を持ちやすい人と持ちにくい人が遺伝的に決定されていることとは関係がない。もっと言えば、ADHDなどの精神障害において脳の変形やネットワーク切断、ドーパミン生成異常が起こっているのだとすれば、そのような変形や切断、異常が起こりやすいかどうかは遺伝子が関与している可能性はどれだけ後天的影響を挙げても関係ない。つまり、彼の話は遺伝的にADHDという特徴を持ちやすい人が、事実そうなりやすい時代になっているという可能性自体は否定しない。彼の意見が正しいとなると、社会を変えればADHDのような障害は減りますよということになる。となるといよいよもって現代的な生活習慣病と見分けがつかなくなってくる。

*1:とりわけアメリカのような高度な資本主義社会

*2:現時点での通説は遺伝的影響のほうが大きいとされている

*3:端的に言えば生活習慣病の一種ということになるだろう

喫煙嫌いの感想

受動喫煙の死者、年間6800人
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2010092800667


僕は喫煙しないし、受動喫煙させられるのにうんざりだが、これは過剰な強制労働環境より遥かに被害が少なさそうな件。これだけ刺激的な汚染物質だらけの環境で、喫煙による年に6800人の死者だけを強調している昨今の排除社会における政治的流行。というか、過剰な労働とか企業のPRが喫煙を加速させてとかそういう研究と絡めてもっと視野の広い研究結果を出して欲しい件。原発は絶対安全で絶対必要だが喫煙は危ないからダメなわけだ。問題は被害を減らそうとする社会的取り組みではなく、どのような被害にどのように取り組むかを恣意的に決めていることだ。例えば警察とか。

Wiredvisionの記事を読んでると

というか心の健康に悪いから滅多に見ないようにしてるけど、人類の狂気が加速しているのをライブで見ているかのようだ。特に最近の記事は人を監視したりコントロールしたりする記事で溢れているな。Wiredはそういった世界を迎合しているわけだが。いずれにしても、人間はもう在るが儘であることを許されない時代に突入していることだけは確かだ。

Winning with WTF

2010-08-13



これをどういうことかというとですね。

新自由主義経済とそれが進行する国でADHDがもてはやされるタイミングが大体一緒なわけです*1 *2。特に大人の発達障害、欧米ではとりわけADHDが取りざたされたのは子供のそれから10年ぐらいのタイムラグを経て。フォローアップ研究が理由でそういうことになってしまったんでしょうが。

100年も前からあり、1930年代には投薬治療の対象となり、ADHD覚醒剤の代名詞リタリンは1950年代から延々と生き延び、そしてADHDが突如として壮大な脚光の元にさらされるようになったのが英米では1980年代*3。文字通りイギリスとアメリカはADHDビジネスのパイオニアとなったわけです。そう、鋼鉄のツンデレサッチャーと映画俳優レーガンによってペンペン草もモテる連中にむしり取られたまさに80年代。一夜にというと言い過ぎですが、昨日と同じように「他動」な子供はある日から深刻な障害児となってしまったのです。

僕の知り合いのフィンランドの人は、専門が別に医学でもないんですが、30年前の大学の卒論でADHDについて書いたとかいってるから研究自体はかなり大昔から盛んだったようで。

実は欧州大陸でもそんなADHDがモテモテになるのは90年代とか21世紀も始まって新自由主義の魔の手が、世界中の富を欲しいままに謳歌していた欧州の中流労働者を蝕み始めたころ。

日本では80年代に中曽根一味がレーガン劣化コピーのように新自由政策を推し進めたもののその後のバブルでワケのわからない事態になって、貧困や、せっかく労働者が勝ち得た様々な権利の衣が剥ぎ取られたことが一般に広く知れ渡る様になったのは世紀末を無事に乗り越えたあとの話。ADHD(というか日本では発達障害)ブームは奇しくも中曽根政権の劣化コピーのような小泉政権によってペンペン草もむしり取られるころとなりました。


もっとみなさんの切迫した事情に沿った話をしましょう。ADHDが社会問題化しているひとつの理由は失業です。僕の知ってる限り、アメリカとノルウェーの研究ではADHDの人たちの失業率は大体3倍ぐらいになっています*4。生産性を年間7000億円も阻害していると槍玉に挙げられ*5、それは年間23日分だと言います。研究者は時々なぜ、オランダではADHDの人たちの生産性が逆にADHDでない人たちのそれより高いのか首を傾げるものの、ADHDの人たちは新自由主義資本主義市場という聖なる教会にADHDの人たちが土足で踏み込み、自己責任を取ろうとせず、いや百歩譲っても取れず、社会保障と言う名の非効率的で反市場主義的な「特権」を貪ろうとするのが許せないのです。

社会的コストや非経済的という話をすれば必ずADHDにいきあたります。ADHDアルコール依存症のリスクファクターであり、ひきこもりのリスクファクターであり、自殺のファクターであり、鬱のファクターであり、医療保険の食いつぶしのファクターであり、失業保険や各種社会保障の引き受け人であり、支払い滞納者のリスクファクターであり、ドロップアウトのファクターなのです。ついでに未婚のファクターのくせに同時に離婚のファクターです。言うまでもなく家庭不和のファクターでもあります。明日にでも保険会社からADHD特約なんかが出てきてもおかしくないわけです。大げさに聞こえますね?そうかもしれません。でも各種研究結果とやらを継ぎ接ぎするとADHDは風邪と同じぐらいには万病の元という結論になってしまうのです。もうこのADHD由来の社会コストをどうにかするのは社会正義にかなっていると人々が考え始めたとしても不思議ではありません。

その反面世界の果てのひとつ、アイルランドに本拠をおくShire製薬はADHDの人のためにAdderrallやVyvanseを売りさばき、PodcastでもADHD啓蒙番組のスポンサーとなり、ADHDの人たちとの不平等な共依存から来る同情を惜しみなく見せるかたわら、Vyvanseでウハウハと株主には説明するわけです*6。今年は売上の7割ぐらいがVyvanseとAdderallによるもののようですが、この利益の一部をADHD支援にでも還元してやれば社会正義を具現化するヒーロー扱いなんですから、ウマすぎて新自由主義も資本主義も辞められません。「僕はADHDで困ってます」とShireに手紙を送れば、クリスマスには一ダースのAdderallとShire教の教えの詰まったPodcastが入った中国産iPadをプレゼントしてもらえるかもしれません。欧州や日本ではまだ投薬には比較的慎重ですが、ロビー活動が生きがいな人が多いアリゾナ州を中心とするアメリカでは年間1000万人近くがADHDだからと薬を与えられています。鬱の人たちへの投薬が霞みそうなほどの巨大市場です。そういえば激安航空券でボロ儲けのRyanairもアイルランドですね。

おっと。Shireとアイルランドの観光ガイドはここまでにしましょう。これだとまるでアメリカじゃなくてアイルランドのShireだけがADHD用医薬品を売りまくっているようです。他にもStratte・・・おっと、Stratteraは揉め事に敗訴したばかりですね。他にもConcertaとかいっぱいあります。会社の方もいっぱいです。まだAMDIntelしか入ってないとか、Only powered by ATInVidiaなんてこともありません。ADHD用薬のバリエーションは胃薬並とは言えないでしょうが、少なくともこのバリエーション程度には多い社会的選択肢とか、せめてもっと自分のペースでやれてストレスのあまりかからない社会がADHDの人たちにあれば、みんなここまで路頭に迷ったり薬を服用したりしなくていいのかもしれません。




あの白熱な教室を受け持つマイケル・サンデル先生もこうおっしゃっています

高い能力への圧力が強まるにつれて、気が散る子供たちが目下の課題に集中する支援への圧力も強まります。これが、注意欠陥他動性障害の診断が急激に増えている理由かもしれません。小児科医で”Running on Ritalin(リタリンに操られて)"の著者であるローレンス・ディラーは、アメリカの18歳以下の子どものうち、5%から6%、400から500万人がリタリン、アダーオールなどの覚醒剤を処方され、ADHD用の選択療法を受けているとしています(覚醒剤は他動を抑え、集中を簡単にし持続させることができる)。

小さな子どもや思春期の子どもへのリタリン処方は過去30年で3倍になりましたが、服用者全員が集中力の障害や他動で悩んでいるわけではありません。高校生や大学生は覚醒剤の処方が通常の集中力の範囲を改善することを学習し、SATや他の試験の成績を伸ばすため、クラスメートから覚醒剤を購入したり、あげたりしています。覚醒剤は医療目的にも非医療目的にも有効なため、他の技術による強化と同じ道徳の問題を提起しています。

しかしこの様な疑問は消失しています。この議論は一世代前に私たちがたどったことのある、マリファナLSDなどの薬物に関する議論との文化的な断絶を明らかにしています。1960年代や70年代の薬物と違い、リタリンやアダーオールは(社会の枠から)抜け出すためではなく、真面目に仕事をするためであり、世界を凝視し、把握するためではなく、世界を型にはめて適合させるためのものです。

私たちは非医療用薬物を”レクリエーション”のために使っていると言っていました。この使い方はもはや不適切です。能力の強化議論に出てくるステロイド覚醒剤などはリクリエーションの素材ではなく、適合のための投資、つまり競争社会の要求に対する、私たちの能力を改善し、私たちの性質を完璧なものにするための回答の一つなのです。この能力と完璧への要求が与えられたものを型にはめることへの衝動を生みだしています。これが能力の強化に伴う道徳的問題のもっとも深刻な源です。


http://www.theatlantic.com/magazine/archive/2004/04/the-case-against-perfection/2927/

例えばマリファナとこうしたADHD医薬品の間に大きな断絶はあるのでしょうか?あるいはLSDなどを用いて得ようとした世界や人生への深い洞察、オルタナティブの模索と、ADHD医薬品や似たような効果をもつニューロフィードバックによるADHDドーピングは?増大する失業率のなかでうまく規律に従えないADHDの人たちが真っ先に滑り落ちて*7、歪んだ経済はそのままに、ADHDの人たちをうまく再教育して少しでも「就業可能性」を高めようとしてるのが欧米です。うまくいくでしょうか。頭のイイ子供たちは「欺瞞だ!」、と思うでしょう。そのとおりです。福祉や障害者支援、集団検診などというものは近代国家の負の副産物であり、大体国民国家ファシズムによる総動員体制というか徴兵のためというのが、本来の目的のひとつだったわけです。本人やその周辺の人達を助けたいという思惑と混ざるような形で、時にはそうした「善意」らしきものを都合の良い隠れ蓑として、ADHD(そして他の精神障害)の概念はますます広まっていきます。ADHDの人たちは確かに困っています。しかしなぜ困っているのでしょうか?単純にその特徴の一部があらゆる時代のあらゆる社会においてハンディキャップとなるか重大な問題を引き起こしそうだからでしょうか?ADHDはその研究の黎明期より今日に至るまで、資本主義的総動員体制のために何がなんでも支援されなければならないのでしょう。時代によってそれがヒロポンと何が違うのかわからないアンフェタミンだったり、ロボトミーだったり、入院だったり認知行動療法だったりそれらの組み合わせだったり形は様々です。フーコーが生きていたら、精神病院(心理学)と工場は・・・と言い放つのかもしれません。ドイツにいた頃、ADHDの人たちへの運転免許の発行を制限しようという動きがあるという話も聞きました。ここまで来るとファシズムのズのあたりまで文字がよく見えてきます。

今日では国民を何をしだすかわからないやんちゃな子供扱いする国家は「雇用可能性」を高めるためにドーピングを積極的にせよ消極的にせよ認め、製薬業界や権威的研究者は一応の慎重な姿勢を見せつつも投薬を重要な方法とみなし、そして当の本人や家族たちも、この競争スパイラルの中、少しでもいい目をみようと自らドーピング競争へ参加していきます。薬に手を出さないまでも、数多の啓発本に手を出す人は数知れません。NLPは一部のADHDの人たちにも有効かもしれません。しかし本を読んだ程度でADHDの人たちの生活が大きく変わるなら*8、多くの研究者は必要とされていないでしょう。ADHDの主要な併存障害のひとつとされる反抗挑戦性障害はもはや「社会革命の可能性」ではなく、「ただのお荷物になる可能性」なのです。もはや10月発売の素晴らしいゲームをさっさと予約して今から部屋で手ぐすね引いて引きこもっているのが最良なのです。こんなぐちゃぐちゃでスラムな都市を作った美しい国で凶悪な湿度と気温にさらされてスーツ着せられてロボットのように働かされて、それに適合できない人となじられているならするべきアドバイスはただひとつです。「この問題は宗教対立のようなものですが、Civilization VかFall Out 3のどちらかを今すぐ買いなさい。それもオンラインで*9 *10」。もしお金がないなら、「Revolution DCMを導入したリアルなCivilizationを起動するのです*11」。

*1:発達障害が一番事態を包括的に説明できる言葉のように見えるのですが、発達障害として話を進めるのは個人的にまだしたくないので、ADHDに限って話を進めます

*2:たまたま一緒な可能性もありますが

*3:1950年代の宇宙開発競争が契機になったと言っている研究者もいる

*4:サブタイプや併存障害などごとに分ければ、ADHDの人たちの中でも極端に失業率の高いタイプの人たちがおそらく浮かび上がってくるでしょう

*5:むしろ個人主義的社会では、ADHD各個人が被った経済的損失を訴えたいぐらいだ

*6:リーマンショックがあろうとマッチポンプがあろうと、2008年には売上は3倍、今年も40%増

*7:なんとか規律に従えている人たちでも、比較的安定して集中できないなど、暴れ馬のような自分を抑えることに疲れている。誰だっておもしろくもなんともない同じような作業の繰り返しと他者からの抑圧の中、日々12時間も働かされるのは異常な苦痛だが、その上集中力が切れやすく、権威に反抗しやすく、衝動的で、うっかりミスが多くてパニックに陥りやすければどうなるだろう?

*8:サプリメントのように若干の手助けにはなることはあるでしょうが

*9:これが90年代から起こっている新たなラッダイト運動なのです

*10:そういえばCivilizationで思い出しましたが、ADHDっぽいボナパルトはフランスを支配するどころか欧州やはたまたロシアまで荒し回りました。しかしここまで来れば社会のお荷物ではなく、フランスきっての英雄なのです。もしADHDっぽいボナパルトが約130年後にちょっくら国境を超えてスペインのピレネー山脈の麓あたりで武器を取ってフランコと敵対していたなら、よりマイナーな人にしか英雄扱いされなかったどころか、人生の大半は社会のお荷物扱いだったかもしれません

*11:Ciilization IVのMOD(拡張スクリプト)のひとつ。これを導入すると市民が暴れだし、しまいにゃ革命を起こす

ネットいじめの自殺率は二倍

http://www.huffingtonpost.com/dr-harold-koplewicz/the-psychiatric-issues-be_b_655556.html (英語)

だそうな。2倍という数字自体が重要なわけじゃなくて、2chのような空間の正当性を崩せる話が出揃い始めたというところ。