ドイツにおける監視論争

日本でも(その数は少なくとも)確実に存在する、監視の強化と民主主義の反比例を訴える人たち。彼ら、彼女らの抗議もむなしく、日本は監視社会へまっしぐらです。
先日1年半ぶりに日本に帰り大阪を訪ねた際、1年半前にはいなかった警備員が心斎橋筋のアーケードをところどころで護っているのを見かけました。大魔神にするには頼りなさそうな方々でしたが(ドイツの警備員はゴツいですからね)、あまりにも犯罪が減りすぎて、凶悪な犯罪が一件起こればメディアが大騒ぎだったり、もはや閣僚のつてを6人たどるまでもなくアルカイーダのメンバーがいたり、なぜか公的な諮問会議のメンバーなんかにカルトと目される宗教団体なんかが名を連ねているほど治安に不安のある日本ですから、みなさん夜どころか真昼間ですら不安で警備員を雇わざるを得ないのでしょう、その気持ちわかります。

さて、ドイツでも不安は伝染しています。というか不安がっているのは、自分達の不正をバラされそうな政治家だけかもしれませんが。
ドイツでもさまざまな件で繰り返し起こる監視論争ですが、今日はそのうちのひとつについて、某ドイツ在住の反民主主義の門番のように妄想を書かせていただきます。まぁ、監視は監視でもちょっと最近流行の監視とは違う方向性なんですけどね。

現在ドイツでは、現行の速度違反監視カメラの次の世代になる、”セクション・コントロール”と呼ばれる監視装置の設置をめぐって議論が行われています。
いずれ日本でも導入されるであろうこの装置、今までの監視装置のように、数十メートルのごく短い距離の移動時間を計測して速度を割り出す方式ではなくて、特定の二点間に設置されたレーダーによって、より長い区間を移動した車の平均速度を割り出すことが出来ます。

つまり、やっていることは交通状況を管理するシステムと似たようなものですね。
日本では加えて原理上、犯罪者などの追跡に使われる(棒読み)、Nシステムを使えば同じようなことが出来ます。たまに警官が私事に使う点と肝心の警察機構にいろいろ問題があることを除けば概ね優秀なシステムです。

これまでのレーダーが、特定のポイントにおける通行車の速度しかコントロールできなかったのに対して、この装置を使えば長い距離にわたって効率的に速度管理を行うことが出来るようになります。既に設置されている隣国オーストリアでは、同装置によって7.2kmにわたって監視される区域が存在します。現在オーストラリア*1では2箇所、交通事故の置きやすい山間のカーブが多い区間などに設置されています。


オーストリアのセクション・コントロールの画像。ヨーロッパ流のデザインはいいのだけどね。

セクション・コントロールの図解。ドイツ語ですけど、要はポイントAとBの間の平均速度を計測して速度違反をしているかどうかを監視しますよという話。


翻ってドイツでこれの何が論争の的になっているかといえば、このレーダーは従来のレーダーと違い、設定速度以上の車の情報も記録対象になるというのは個人情報保護や、民主主義の後退の危険性があるので反対だと、弁護士を初めとする専門家達が言っているわけです。もちろん賛成あるいは特に反対はしていない弁護士や専門家もいます。ドイツの憲法を参照すれば、この装置の導入は否定も肯定もされていません。

そこでさぁ、政治の時間なわけです。みなさん、血沸き肉踊る政的論争ですよ!キテレツ解釈で民主主義地獄ナリよ!


ドイツには憲法裁判所という民主主義の最後の砦があるので、ここが違憲判決を下せばこの装置の導入を打っちゃることは可能ですが・・・、とはいえGeorge W. Bush´s 9/11*2のおかげでこういう監視は世界中でやりやすくなりました。まさしくパンドラですね。恐慌開始前までは国民に借金させてまで消費しまくる輸入超大国でしたが、この国の最大の輸出品のひとつは監視社会モデルなのでしょうか。上の注釈の通り、世界の監視カメラはここに集まる状態のイギリスでちゃっかり導入済みなのは驚くに値しませんが、ジャーナリストによる世界の言論の自由ではドイツより上位に位置するオランダが早々に導入済みなのが気になるところです、が、残念ながら僕はオランダにおける事情をまったく知りません。

この論争ももちろんドイツにおける民主主義の猛烈な後退、監視社会への飛躍、ゼロ・トレランスな社会への飛躍の一過程に過ぎません。というか最近駅や電車、街の警備員増えすぎだろう。駅に行くごとに増えてるライフゲーム状態w 一体どこまで人は監視という圧力に耐えられるのかという実験の様相を呈してまいりましたw 10年後には電車の乗客の半分は警備員かもしれません。これなら犯罪の起こる隙もありませんが、精神力の鍛錬の足りない誰かが監視の目に耐えられず、ポスタル効果*3を引き起こすかもしれませんね。

監視を強めていくと最終的にはお受験的に表層だけいい子になる、従順な奴隷が増えるだけだと思うんですけどね。ドイツが闘ってまで護ると言ってる民主主義はその時点で解体されやしませんか?それは監視カメラの発達の前から見えない相互監視システムが機能していた日本が証明してると思うんですけどねぇ・・・。

そんな中で先日はフランクフルトがあるヘッセン州議会選挙でもはや役に立たないSPD社会民主党)の自滅で、現状維持状態のCDU(キリスト教民主同盟)が結果的に与党になっちゃったとのことですから、どうも皆さんまだCDUに期待中以上のようです。もっとも、大きく伸びたのはFDP*4緑の党なんですけど。ともあれCDUなんかがこういう監視政策に積極的な以上、この監視ごっこはまだまだ終わる気配ありません。教育費削っても、福祉を削ってでも護りたいものがある・・・、っていうのは極東のどこかと程度の差があれ同じですな。もっとも、程度の差が大事なんですが。

*1:他にはイギリス、オランダ、イタリアが導入済み

*2:陰謀かどうかはともかく、これを利用してブッシュ政権がやりたい放題やった(そして日本を始め他国も追従した)のはまぎれもない事実。他人の犯罪行為を当て馬にしてそれ以上の犯罪行為をやってのけたわけですな

*3:イカレた主人公が街中で虐殺劇を繰り広げることが主目的のゲーム。元祖GTAのような存在だと思うのだが、最近はGTAのほうがはるかに有名かつ攻撃対象。

*4:これまたこてこての絵に描いたようなネオリベ政党。日本語では自由民主党w、ネオリベプラス統制志向のこてこて保守のCDUとは相性良すぎで、混ぜるな危険。FDPで思い出したけど、ドイツ語は日本語と同じで、言語上リバティとフリーダムを区別しない。どちらも自由。